Psapp - The Only Thing I Ever Wanted

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Psappはイギリスはロンドン出身の女の子2人組(Carim ClasmannGalia Durant)によるエレクトロニカデュオ。
このアルバムは2006年にリリースされた2ndです。
エレクトロニカといってもありがちな電子音は控えめで、鳴っているのはトイピアノアコースティックギター、フレンチホルン、様々なパーカッションの音。
特にこのパーカッションの種類の多彩さは耳を惹きます。空き缶を叩いたような音やカリンバ、ドラムスティックでカウチを叩いた音なども入っているそうです。
これらの音から立ち上る情景は何ともメルヘンチックで、ジャケットが表すように妖精や木の家などが思い浮かびます。
しかし流石はイギリスのアーティストと言いましょうか、仄かに薄暗く不気味な雰囲気が全体に漂います。
ヴォーカルも呟きに近くかなりダルな感じで、それが曲の雰囲気によく合っています。
あと通して聴いて感じたのが、この2人は歌メロを作るセンスが抜群に良いのではないか、ということ。
1.「Hi」4.「Needle & Thread」8.「The Words」などのダンサブルなリズムに漂う気だるいヴォーカルのメロディは個人的にかなりハマりました。 特に8.「The Words」はメルヘンでありつつもエロティックな芝居小屋に迷いこんだようなアブナイ感じが素晴らしい。

Radioheadの一部の曲なんかにも言えると思うのですが、イギリスのアーティストの曲に漂う仄暗い陰湿な雰囲気が僕は個人的に好きなようです。
「本当は怖いグリム童話」なんて本が昔流行りましたが、ちょうどあんな感じでしょうか。ハリーポッターも原作はかなり陰惨ですからね。
徹底的に暗くてジメジメしてるとさすがにキツいですが、この作品ぐらい肩の力が抜けてて仄かに霧が漂うような暗さのある作品は本当に好きですね。


Sunn O))) - Monoliths & Dimensions

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アメリカの超ヘヴィ・ドゥーム/ドローンユニットの2009年発表作品。
このテの音楽は超音量のデカいギターとベースの「どぅぅ〜ん、ぐぅぅお〜ん」って音が曲の大半なのですが、このアルバムはそう一筋縄ではいかず、むしろ音楽に豊穣さを感じさせます。
1曲目「Aghartha」では絶妙に音色を計算されたギター・ベースの重殺音にゲストヴォーカルのアッティラ・シハーさんの死神ボイス(語り)と弦を打楽器的に擦り叩く音や水の流れるような音が重なり、何ともデスな世界観。
2曲目「Big Church」では冒頭から女性の聖歌的な多重コーラスが流れ少しビックリ。しかしSunn O)))の音楽にはピッタリはまります。何とも音楽的。
3曲目「Hunting & Gathering (Cydonia)」でも途中まではいつものギター・ベースがどぅぅ〜んなんですが、間に金管楽器の音が入ってきます。 これが使い方が自然で全く違和感がありません。むしろ真っ黒の絵に色合いが足されたようで、より陰影が濃く深みが増しています。
そして4曲目「Alice」。この曲を聴くまで自分がまさかドゥーム/ドローンを聴いて感動して癒されるだなんて思いもしませんでした。ディストーションギターとベースにハープとホルンが織り成す幻想世界。闇から光/汚濁からの浄化のようなイメージ。ドゥーム/ドローンが嫌いではないのならこの曲は絶対聴いてほしいです。最後の一音まで聴いた後に感じられる感動は、良質な交響楽を聴いた時のそれと同じです。

Melt-Banana - Fetch

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ヴォーカルYakoとギターAgataからなる日本が世界に誇るハードコアロックバンドMelt-Bananaによる7th。 2013年発表。
僕は前々作の「Cell-Scape」しか聴いていないのでこの人たちの音楽については偉そうに語れないのですが、これは素晴らしいロックアルバムです。
作品全体に漲る自信、昂揚感、輝き、その全てが比類ない高次元で集約されています。
紆余曲折ありながらもロックバンドとして誠実に一本筋を通し続けてきたバンドが稀にこのような音楽を聴く喜びさえも感じさせてくれるようなアルバムを作ることがありますが、この作品はその一つに数えて良いでしょう。
Yakoさんのヴォーカルは単にキュートなアジテーションではなく心に直接語りかけるような力強さを感じさせ、楽曲の雰囲気も温かく抱擁力があり不思議な心地よさがあります。
根底にあるのはハードコアですので、表層はガチャガチャうるさいですが、ポップな要素はしっかりありますし、ヴォーカルも耳に痛いシャウトは一切していませんので実は好きになれる人は多いのではないかと思います。それだけにこういった傑作を聴いていると知名度が低いのが残念に感じられます。アルバム冒頭の展開なんか出勤時に聴くと元気出そうですよ。
ともかくも、全ロックファン必聴。

竹本 晃 - serial experiments lain BOOTLEG

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1998年にテレビ東京系で放送された深夜アニメ「serial experiments lain」のサウンドトラックです。 スタッフからの流出物という演出のもと発売されたのでこのように簡素な仕様となっています。
ミニゲームや壁紙なども同梱されていますが、音源に絞って書きたいと思います。
このアルバムに収録されている音源はアニメ本編で使われた曲であり、3種類発売されたサウンドトラックの中でも最もマニアックな内容となっているのですが、僕は断トツでこれが好きです。
アルバム全ての曲が陰鬱で暗く静かな電子音楽であり、間違っても晴れた日に外で聴く音楽ではありません。
45曲もありますが、一曲一曲が1〜3分であり曲によっては組曲のようにシームレスに繋がっていたりします。 特に31.「レインと英利」から34.「Dreadful Eiri」はアルバム中最も不気味でヘヴィかつハイライトになっていてアニメ本編を観ていなくてもゾクゾクするのではないでしょうか。
エレクトリックな音楽が聴きたいけどChemical Brothersみたいなイケイケなやつは辟易してしまうし、かといってAphex TwinやSquare Pusherはよくワカンナイ。
暗くて重いけどうるさくなく、かつクールである程度のキャッチーさもあって日本人的な侘び寂び(音と音の間に絶妙な隙間がある)も感じるエレクトリックミュージック。
そういうものが聴きたい人にはうってつけです。
ちなみに僕のフェイバリット曲は25.「冷たい視線b」です。
最低限のリズム音に被さる幻想的なピアノのメロディーは何度聴いてもうっとりしてしまいます。


相対性理論 - TOWN AGE

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日本の新世代ポップロックバンド相対性理論によるニューアルバム。
僕はこのバンドが個人的に大好きで特に前作シンクロニシティーンが傑作だったので来たいと不安混じりに聴いてみたのですが、結論から言うと前作の方が好みでした。うーん残念。
僕は知らなかったのですが、前作から今作の間にメンバー交代があり、核となっていたベースの真部脩一が抜けてしまい、サウンドメイクの部分でバランスが悪くなってしまったと感じました。どうもガチャガチャしているというか色んな音を鳴らし過ぎているような気がします。 曲調も最近のつまらない邦ロックバンドのそれに近づいてしまったのではないかと思うフレーズが散見されると感じました。
製作の方針として今まで真部脩一にイニシアチブを取らせていたのをやくしまるえつこに一任するのではなく、バンド全体で進めるようにしたのではないかと思います。 真部脩一のハナエの曲も聴いてみればわかりますが、この人がいると「シンクロニシティーン2」が出来上がってしまうとわかったのでしょうね。全部僕の想像ですからそこら辺の事情はわかりませんが。

全体的にエセオリエンタルなメロディと哀愁が漂うアルバムで、クオリティは傑作ではないにしろ良作ではあると思います。
1.「上海an」のスピード感と途中のせーのでしゃんはいって声はどうしても可愛いと思ってしまうし、4.「キッズ・ノーリターン」はライブで化けそうな切迫感がロックな雰囲気を出しています。
他にも8.「ほうき星」は今までになかったアコースティックで純朴な曲になっており、少し狙い過ぎてる感もありつつ嫌いではないかな。
個人的には3.「YOU & IDLE」が「テレ東」とやくしまるソロの「ウールはゆっくり夢を見るか?」の系譜に連なる静かでメロウな曲でかなり好みであり、10.「たまたまニュータウン」もメロウでインチキノスタルジアなメロディに酔えましたね。
歌詞は今までとあまり変わらず特にこれといった新しい試みがあったようには感じませんでした。「バーモント・キッス」や「ペペロンチーノ・キャンディ」、「スマトラ警備隊」のようなおっと思わせる独特のシニカルな毒気を持った歌詞がないのがまた残念な点。

OGRE YOU ASSHOLE - confidential

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日本のロックバンドOGRE YOU ASSHOLEによる初のリミックスアルバム。 2013年発表。
2013年発表ですが、個人的にはもう随分前に発売されたような印象を持ってしまいます。それだけ次のアルバムが待ち遠しいんだろうなと思ってます。
内容としてはこれまでアナログ盤限定で収録されていたリミックス4曲と新録リミックス4曲の8曲からなる完全リミックスアルバム。
リミックスアルバムというと大概がそのアーティストの特にファンの人だけがついでに聴くようなオマケ程度のものですが、これはオリジナルアルバムと呼んでも差し支えないぐらいのクオリティです。
原曲に漂う靄を更に濃くした1.「真ん中で」や人間が誰もいない桃源郷に誘われるような5.「バックシート」の幽玄性はオウガにしか出せない高みに達しています。他にも2.「また明日」は原曲が大好きなのでどんなリミックスになるかととても期待していたのですが、これも素晴らしい。元のほんのり夕焼け色の和風感からモダンで都会ポップスな雰囲気になっています。というかコレCANのアルバムFlow MotionのI Want Moreにとっても似ています、特にベースラインはほぼ同じ。でもパクってるぜーとか感じないんですよね。こちらはこちらでしっかりと世界観が完成されているから借り物感がないのです。
そして6.「フラッグ」は原曲が今ひとつ良質なJ-ROCKの域を出ていないところからしっかりクオリティを上げて作り直してくれました。淡々と同じフレーズを繰り返すベースと機械制御されているような最小限のドラム、そこに物陰からこちらを窺うようなヴォーカルと気色悪い声が重なり何ともキモカッコいい一曲になってます。しかし原曲のメロディラインはちゃんと残してあるため丁度いい塩梅にポップです。アルバム中一番聴きやすいのはこれかな。ヴォーカル出戸っくす監督のPVも正にこんな感じ!と言いたくなるような世界観を表現できてます。曲が気に入ったら是非どうぞ。
最後に7.「素敵な予感」、色々言いましたが白眉はコレですね。むしろ原曲がこっちの方が良いんじゃないの?と言いたくなるような(まぁそれだとアルバムの統一された世界観を損ないますが)凄い完成度。この曲を聴いてると巨大なUFOを下から見上げている内にいつの間にか中に連れて行かれてしまったような、凄まじい圧迫感と相反する浮遊感を同時に感じます。つまり異様に気持ち良い。
特にクライマックスの強烈なノイズに包まれドラムがズダダダダダダダと入ってきてからの展開はある種ありきたりながらもどうしようもなく興奮しロックを聴いているということの満足感を感じさせてくれます。

ちょっと褒め過ぎてるのはライヴを実際に観た事と今後の期待も込めて。

スピッツ - 三日月ロック

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みんな大好きスピッツの10枚目のアルバム。 2002年発表。
収録曲の4曲がシングルで、けっこう多いなと感じますが、アルバム曲も同じぐらい、曲によるとシングル曲よりも目立ってます。特にアルバム冒頭を飾る「夜を駆ける」の程よい疾走感と切なさは素晴らしい。ピアノとギターが織り成す君と僕だけの夜の市街地。何度聴いてもグッときます。
続く「水色の街」もサビがラララーしか言ってないのに違和感がまったくなく、とてもとてもメロディアス。シングル盤のジャケット通りの深い青色に包まれぼやけた街が浮かんできます。
「さわって・変わって」は「水色の街」で君に会いたくて川を渡ってきた僕が駅で君に出会うところでしょうか。
ポップでウキウキしてくるような曲調に載せた「君のよれた笑顔」という歌詞が無性にいいなと思います。
他にも僕が個人的にスピッツの中でもトップクラスに好きな「遥か」やスピッツとしてはヘヴィーな哀愁感がたまらない「ガーベラ」、爽やかな海風が頬に当たるような「海を見に行こう」などどの曲も粒揃いで捨て曲がありません。
アルバムの締め方もニクい。実質的に最後の曲は「旅の途中」で柔らかな陽光に包まれ穏やかな終わりを迎えるかと思いきや、最後の最後に汗まみれの聖火ランナーが目に浮かぶような「けもの道」でスケールでかくドカーンと派手にアルバムを結びます。
この終わり方からも感じ取れるようにこの頃のスピッツはバンドとしても精気に溢れ、覇気が漲っていたのだなと思います。草野さんの歌詞も言葉が一人歩きせず簡潔な短いセンテンスでも曲をグッと際立たせることに成功しています。
例えば先ほどの「海を見に行こう」での、
「明日 海を見に行こう
眠らないで二人で行こう
朝一番のバスで行こう
久しぶりに海へ行こう」
や、
「旅の途中」の、
「君はやってきた
あの坂道を かけのぼってやってきた」
などは歌詞だけ見るとあまりにもシンプルですが、曲と一緒に聴くと急に情景が浮かび上がります。

僕がスピッツの最高傑作と思っているこのアルバム、改めて聴きなおしてみては。